書評
―星川啓慈,松田真理子 著―統合失調症と宗教―医療心理学とウィトゲンシュタイン
小林 聡幸
1
1自治医科大学精神医学教室
pp.511
発行日 2011年5月15日
Published Date 2011/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405101878
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臨床実習の学生に英語で「精神医学」は何かと問うと,十中八九「サイコロジー」といわれてしまうのだが,精神科医にとって心理学は意外に縁遠く,臨床心理学の松田真理子氏が『統合失調症のヌミノース体験』(創元社)なる書を上梓されているのも評者は知らなかった。本書はその松田氏と宗教哲学・言語哲学の星川啓慈氏が,おのおの3編ずつの論文を持ち寄り,おおむね交互に並べて,論文と論文の間を両者の対談でつなぐというきわめて特異な形態で綴った書である。評者はたまたま本書を都内の大手書店で見つけたが,「統合失調症」「宗教」「ウィトゲンシュタイン」と三題噺だとしたら,あまりに形而上学的かつ刺激的なタイトルに思わず目をみはった。精神医学や心理学と宗教とのかかわりは古くはウィリアム・ジェイムズの『宗教的経験の諸相』やクルト・シュナイダーの『宗教精神病理学入門』が有名だが,やはりなかなか扱い難い領域なのだろう,まとまった著作は多くはない。そこで統合失調症と宗教を扱った本書は大変貴重と思われた。
ところが,本書のテーマは「人間にとってリアリティとは何か」ということだという。これは全体を読んでも隔靴掻痒の感が否めないのだが,病的体験のリアリティや宗教体験のリアリティ,そしてある人にとってリアルであることが別の人にとってリアルでないということをどう架橋するのかといった問題意識のようだ。
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