巻頭言
慢性化した統合失調症患者の在宅ケア
白石 弘巳
1
1東洋大学ライフデザイン学部
pp.108-109
発行日 2011年2月15日
Published Date 2011/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405101784
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最近,統合失調症に対する早期介入の必要性と,患者の主体性の回復に焦点を当てた支援論が高い関心を集めている。しかし,福祉系の大学に身を置き,非常勤で細々と臨床を続けている私が出会う統合失調症の患者のほとんどは発症後かなりの年月を経た人たちであり,長期入院中の患者の保護者の過半数はすでに親から兄弟たちに移っている。有志で15年以上続けてきた「家族と専門家の交流会」にも高齢になり参加できなくなったという父母からの便りが届くようになった。家族会の全国組織である全国精神保健福祉会連合会(通称「みんなねっと」)では,2009(平成21)年に会員家族に対して現状と課題などを明らかにするためのアンケート調査を行ったが,家族の高齢化を不安に感じるという回答が全体の84.1%に上った。
こうした中で,同居家族なきあと在宅生活が維持できなくなり,入院を余儀なくされるケースが生じている。10年以上,少量の抗精神病薬の服用で,ほとんど無症状のうちに過ごしてきたある中年女性は,母親の死後,幻覚妄想状態に陥り,関係者に連れられて入院となったが,症状は処方を増やしても容易に改善しなかった。別の男性は,父親が癌で入院する際に,1人では暮らせないということで入院となった。まもなく父親は死亡し,現在は水中毒もあり退院のめどが立たない状態になっている。昨今生活を維持できなくなって入院に至る人は,就労経験が乏しく,家族の援助を受け,長期間家にひきこもりがちの生活を送ってきた人たちが多い。
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