書評
―東京都立松沢病院130周年記念事業後援会 編―東京都立松沢病院130周年記念業績選集 1919-1955―わが国精神医学の源流を辿る
笠井 清登
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1東京大学大学院医学系研究科精神医学
pp.1138
発行日 2010年11月15日
Published Date 2010/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405101739
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本書は,日本の公的精神科病院の祖であり,現在も中心的存在である都立松沢病院の創立130周年を記念して,前院長松下正明氏らが,同病院の研究黄金時代ともいえる1919~1955年にかけての業績のうち,後世に残すべき重要なものを選集したものである。
林暲,秋元波留夫による「精神分裂病の予後及び治療」(第38回日本精神神経学会総会宿題報告,1939)は,東京大学病院精神科と松澤病院を一定期間に退院した精神分裂病(現在では統合失調症,当時の病名をそのまま用いた,以下同様)患者全員に対する予後と治療成績の調査報告である。予後良好因子について,女性,非定型性,急性発症を挙げており,まだ抗精神病薬が登場していない時代のデータであるが,我々の知る疫学的エビデンスとよく一致している。完全寛解の症例が数例提示されており,顕著な幻覚妄想状態がみられたものの,最終的に社会適応がよく,回復したといってよい経過が,抗精神病薬がない時代にも存在することを改めて認識させられる。治療については,インスリン療法の効果について検討しているが,一般的自然寛解率を上回ると結論づけているものの,本療法に特異的な治療効果は見いだせず,本来的寛解傾向を強化するものである,と慎重な付記もみられる。発病より治療までの期間が短いほうが予後がよいことも明確に示されており,DUP(duration of untreated psychosis)と予後の関係を最近メタ分析で確認し,早期介入を叫ぶ現代精神科医には衝撃的である。
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