書評
―山内俊雄 編集統括,精神疾患と認知機能研究会 編―精神疾患と認知機能
神庭 重信
1
1九州大学大学院医学研究院精神病態医学分野
pp.724
発行日 2010年7月15日
Published Date 2010/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405101668
- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
「精神疾患と認知機能」を読みあげるのにおよそ2か月を要した。私はもっぱら情動を研究しており,認知のことは門外漢に近いからである。しかもまとまって本を読む時間が取れないので,他の本と並行して少しずつ読み進むしかなかった。しかし全章を読了した今,精神疾患の認知研究がかくも進歩していることを知り強い感動を禁じ得ないでいる。
認知科学(狭義)は,記憶,言語,思考,方略,遂行,覚醒,注意,知性などの認知要素を主な対象とする。これは言い換えれば,「意識」と「言葉」という,我々の「思索の武器」を対象としているといえようか。もっとも,脳は階層性と局在性を持ち連合して働くものなので,情動や無意識を除外して認知の真の姿に迫ることはできないだろう。たとえば社会的認知はまさに情動と一体となった認知である。知の極みともいえる数学ですら感情をいれなければ成立しないと言ったのは岡 潔である。これはいったいどういうことなのかと思う。また,認知科学が脳を問題とするときには,情報のシステム系としてとらえるためか,神経回路レベルでとどまり,薬物の影響などは別にして,物質を取り扱うことは少ないように思う。いずれは回路機能を担っている物質と認知の関係にまで踏み込んで欲しい。
Copyright © 2010, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.