- 有料閲覧
- 文献概要
2010年4月4日という,桜咲く日曜日に,東京大学鉄門記念講堂にて,第1回AD/HD学会が全国から120名ほどの参加者で開催された。国立成育医療センターの奥山眞紀子会長のもと,大会テーマを「AD/HDの生涯支援」として,2次的障害を持った思春期の子どもへの支援,成人期の支援,発達障害を持った親への養育支援,生涯支援を見据えた小児期からの支援などについて,講演と発表がなされた。AD/HDの治療において,思春期以降も残存する症例群をどのように扱うかは,その診断,治療において,周知のようにさまざまな課題を持つものである。症候の表現形態が変わり,薬物の反応も変わってくるこの時期に,何を手がかりとして診断を確定し,また児童期と異なるどのような薬物療法と心理社会的接近を工夫するかは愁眉の問題である。AD/HDに焦点を当てた初めての学会が,どのような広がりや,深さを持つものになるか注目された。
わずか1日で,特別講演1つ,一般演題は5つ,セミナーが2つ,シンポジウム1つ,懇親会も設定され,きわめて密度の濃い学会であった。まず,午前の始めの特別講演は,「AD/HDを含むその認知過程」という東京大学先端科学技術研究センターの渡邊克己先生のワーキングメモリーの基礎的研究に関するものであったが,ワーキングメモリーの発達過程や視覚的ワーキングメモリーの壊れやすさというデータに裏づけられた示唆に富む内容は,種々の想像を掻き立て,本学会の鏑矢というべき内容であった。続く午前の一般演題は,AD/HD治療の最前線の生の声が語られ,聞く側も多く頷きつつ,投げかけられた課題に共に悩むという,専門学会ならではの白熱した発表であった。その後,午前のセミナーにおいては,「AD/HD治療のこれからを考える」というテーマで,2種のAD/HD治療薬の治療が始まった現在の臨床の状況と課題について,旭川医科大学の荒木章子先生が講演された。真摯な臨床の取り組みと小児科医ならではの視点が,印象深い講演であった。
Copyright © 2010, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.