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はじめに
近年,来日外国人の増加とともに,彼らの一部がかかわる犯罪の総数も増加傾向をたどり,検挙件数,検挙人員ともに無視できない数に上っている。その犯罪も,殺人,強盗といった重大犯罪から,詐欺や文書偽造といった知能犯,覚せい剤や大麻取締法違反,入管法違反といった特別法違反と多岐にわたる。
『犯罪白書平成19年版3)』によると,平成18(2006)年における来日外国人被疑事件検察庁終局処理人員は20,276人,このうち起訴された者が10,390人,起訴猶予とされた者が8,202人であった。通常第1審被告人通訳事件は7,195人であり,通訳言語の総数は42言語に及んでいる。その内訳は,中国語:2,838人(39.4%),韓国・朝鮮語:919人(12.8%),タガログ語:597人(8.3%),ポルトガル語:533人(7.4%),タイ語:387人(5.4%),スペイン語:374人(5.2%),ベトナム語:258人(3.6%),英語:230人(3.2%),ペルシャ語:205人(2.8%)の順であり,上位3言語は平成10(1998)年以降変わっていない。有罪人員は8,486(通訳付き7,113)人であり,執行猶予率は79.2%であった。事件後の一連の経過の中で,精神鑑定がなされた者も少なからず含まれていると思われるが,その実態は定かでない。
わが国の憲法32条では,「何人も,裁判所において裁判を受ける権利を奪われない」と規定しており,当然のことながら,外国人においても裁判を受ける権利を保障している。このことは,世界人権宣言第10条に「すべて人は,自己の権利及び義務並びに自己に対する刑事責任が決定されるに当っては,独立の公平な裁判所による公正な公開の審理を受けることについて完全に平等の権利を有する」とあるように,国際的にも保障された権利である。こと外国人の裁判を受ける権利に関し問題となる言語問題に関しては,わが国も批准している『市民的及び政治的権利に関する国際規約(国際人権B規約)』第14条に反してはならない。すなわち,次頁表に示したように,被疑者・被告人が日本語を解さない場合,彼らの理解する言語で速やかにかつ詳細にその罪の性質および理由を告げられることや防御の準備のために十分な時間および便益を与えられることが必要であり,精神鑑定もそういった状況下でなされなければならない。しかしながら,その経験の蓄積はいまだ不十分であり,この問題を取り上げた文献も安ヶ平10)によるものしか見当たらなかった。
今回,筆者らは通訳を介した精神鑑定を3例,続けて経験した。これらの事例から,外国人に関して精神鑑定を行った場合の諸問題を考えてみたい。その際,自験例の記載に当たっては省略を施し,匿名性については十分な配慮を行うこととする。さらに,過去の裁判例も参考にしつつこの問題の検討を行ってみたい。
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