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はじめに
Catechol-O-methyltransferase(COMT)はcatechol系化合物を不活性化する酵素でありcatecholamineの代謝,特にドパミン系の代謝経路においてきわめて重要な役割を果たしている19)。COMTによって代謝されるドパミンは脳内に存在する神経伝達物質であり,幻覚や興奮といった精神症状の発症,および報酬効果を求める自己投与の強化といった依存の形成の発現へ深く関与する因子の1つである22)。また,前頭前皮質(prefrontal cortex;PFC)機能とドパミンの関係として逆U字モデルが提唱されており,ドパミン量が中程度(正常範囲)のときPFC機能は最適であり,ドパミン量が高過ぎても低過ぎてもPFC機能は低下するといわれている5,10,21)。COMT酵素活性に変化を及ぼすVal158Met多型(rs4680)は統合失調症や躁うつ病,薬物依存との関連についてこれまで多くの報告がされており14,22,24),この多型がパーソナリティに関連する可能性が考えられる。
COMTをコードしている遺伝子は22q11.2に存在し,2つのプロモーター領域から2種類の長さの異なるmRNAが生成される27)。脳において,膜(membrane-bound)COMTは溶解性(soluble)COMTに比べて有意に多く発現しており27),catecholamineへの親和性が約10倍高い19)。このことから,膜(membrane-bound)COMTは中枢神経系において重要な役割を果たしていると考えられている23)。膜(membrane-bound)COMT遺伝子座位の158番目と溶解性(soluble)COMT遺伝子座位の108番目は同じ部位であり,この部分の塩基がG(グアニン)からA(アデニン)へ置換し,アミノ酸がVal(バリン)からMet(メチオニン)へ置換される変異が存在する。このアミノ酸置換の結果,COMTの酵素活性に変化が生じ,Val型(高活性型)はMet型(低活性型)の3~4倍の活性を有していることが知られている18,19)。
遺伝子とパーソナリティとの関連を検討するため使用される検査の1つに自己記入式人格検査のNeuroticism Extraversion Openness-Five Factor Inventory(NEO-FFI)がある。NEO-FFIは60項目の質問により人格特性の5つの主要な次元を測るための尺度でありRevised NEO Personality Inventory(NEO-PI-R)の短縮版である。5つの次元とは神経症傾向(Neuroticism;N),外向性(Extraversion;E),開放性(Openness;O),調和性(Agreeableness;A),誠実性(Conscientiousness;C)である25)。
これまでにCOMT Val158Met多型とパーソナリティとの関連研究が報告されているが,一貫した結果は得られていない。Steinらは健常者に対してNEO-PI-Rを実施し,性別ごとに解析したところ,女性においてMet/Met型はE(外向性)が低く,N(神経症傾向)が高かったと報告している26)。EleyらもまたN(神経症傾向)において弱いが関連性を認めている7)。日本人健常者を対象に行った研究も報告されており,UrataらはCOMT Val158Met多型のみでは関連性はなかったが,COMT遺伝子多型,monoamine oxidase A(MAO-A)遺伝子多型およびdopamine receptor D3(DRD3)遺伝子多型を組合せた場合にA(調和性)と弱い関連が認められたと述べている29)。さらに,TochigiらはCOMT遺伝子多型,MAO-A遺伝子多型およびtyrosine hydroxylase(TH)遺伝子多型の組み合わせにより生じるcatecholamineの合成・分解能の差で群分けした場合に,E(外向性)との関連性を報告している28)。さらに,分散分析の結果,TH遺伝子多型の主効果がE(外向性),COMT Val158Met多型の主効果がA(調和性)で認められるとした28)。NEO-PI-R,NEO-FFI以外の自己記入式人格検査にTemperament and Character Inventory(TCI)4,17)があり,このTCIとCOMT Val158Met多型との関連研究も最近報告されている。日本人健常者においてHashimotoらはMet/Met型は損害回避(Harm avoidance;HA)が高かったと述べているが12),一方で,Ishiiらは関連性は認められなかったと報告している13)。
本研究では,catecholamineの代謝に関与するCOMTの遺伝子多型であるCOMT Val158Met多型(rs4680)とNEO-FFIにより測定されたパーソナリティとの関連性について検討を行った。
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