巻頭言
精神療法の神話と今後の課題
大野 裕
1
1慶應義塾大学保健管理センター
pp.1252-1253
発行日 2003年12月15日
Published Date 2003/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405100744
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精神療法はいろいろと誤解されているように思う。よくある誤解のひとつが,精神疾患を根本的に解決するためには薬物療法だけでは不十分で,精神療法が必要だというものだ。こうした考えを主張するのは精神療法を専門にしている人たちだけではない。薬物療法だけで症状が改善しない場合にそのように患者に伝える専門家がいたりする。またそれを患者さんが信じて延々と精神療法が続けられる場合さえある。
そこには,精神疾患は心の問題であり,その根本を理解して問題を解決することが重要だという思想が流れている。その考え方自体はもっともなように聞こえるが,私たちがそこまで心を理解しているかというとまだまだ心許ない。精神疾患は精神機能の一部が適切に働かなくなった状態だが,脳科学の飛躍的な進歩にもかかわらずその原因はまだ十分には解明できていない。私たちも最近,軽度から中等度のうつ状態に関する双生児研究のデータから,うつ状態が特有の遺伝的背景を持つのではなくパーソナリティと環境要因との相互作用で生じることを報告し,現在のカテゴリー分類の限界を指摘した。
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