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はじめに
数多くの社会文化的な事象の中で,精神疾患はとりわけスティグマの対象となりやすいことは歴史的に何度となく観察されている14,21)。今日でもなお,スティグマは精神疾患を持つ人々の生活の質を著しく損ねており17),その影響は精神のみならず身体的健康にも及んでいる1,13)。スティグマは米国の外来患者の70%によって体験されており9),またイスラム社会などの非西欧文化圏においても重要な問題となっている19,22)。
Byrne4,5)によればstigmaの定義は多様であり,個人の一特徴が,全体的なアイデンティティと結びつけられること,そのことによる歪められたアイデンティティの形成,もしくは否定的な画一的な見方による偏見の形成などである。こうした否定的な見解は,スティグマを与えられる本人の言動というよりは,スティグマを与える社会の側の否定的な行動や態度に由来していることが多い。
同じくByrneが指摘しているように,スティグマは精神疾患の治療,適応の上で重要な影響を有しているにもかかわらず,多くの精神医学の学説や教科書の中で,項目はおろか索引語としてさえ触れられてこなかったことは驚くべきことである。特に近年,精神医学のみならず医学全般において社会復帰が重要な課題として掲げられてきたことを考えると,その印象は強い。精神科医はスティグマの問題に関心が薄いだけではなく,むしろ精神科医によってスティグマが生み出されているとの指摘が,多年にわたって社会精神医学に取り組んできた英国において出されていることは興味深い6,7)。どのような疾患であっても,スティグマは苦痛なものであろうが,他者との関係に病理を生じる統合失調症においては,スティグマは被害的な意識と同期し,一層の苦痛を与えるであろう。不適切な病名をはじめとして,精神科医からスティグマがもたらされがちなことも指摘されており7,18),専門職としての精神科医の責任はより大きいと言わざるをえない20)。
以下ではスティグマに関する国際的な活動の概要を紹介するとともに,日本での取り組みの一端にも触れたい。
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