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はじめに
近年の悪質な少年事件を受けて,少年犯罪に対する関心はきわめて高い。中でも薬物関連問題はさまざまな少年犯罪・非行の基盤を構成する主要成分であり,薬物乱用対策は日本のみならず,世界的に喫緊の課題である。覚せい剤を例に見てみると,わが国では戦後2度(1954年と1984年)の覚せい剤乱用のピークを経験し,法務省所管の矯正施設(拘置所,刑務所,少年院などを指す)においては覚せい剤乱用対策として,1981年に「覚せい剤事犯関係の被収容者に対する処遇の充実強化について」という矯正局長通達が出され,全国の矯正施設において薬物乱用防止を軸とした教育指導が実施されてきた4)。
1989年以降,覚せい剤乱用事犯件数は低下傾向にあったが,1995年から現在に至るまで再び増加傾向にある。少年において最も使用頻度の高い有機溶剤においては,1991年以降,減少傾向にあるが依然として高頻度で使用されている。この憂慮すべき状況を踏まえ,最近では1997年に薬物乱用対策推進本部が内閣に設置されて以降,関係省庁が連携しながら,積極的に活動している。薬物はその心理的・生物学的効果から,1度使用を中止しても,さまざまな状況をきっかけとして再利用する危険性がきわめて高い。この薬理的性質は,矯正施設,とりわけ少年院における教育指導がいかに重要であるかを示している2)。また,その社会環境などから,薬物使用経験の有無にかかわらず,少年院に入院する少年たちは,薬物乱用のハイリスクグループととらえることもできる。少年院において薬物に対する教育指導を充実させれば,収容少年は薬物に対する抵抗力が形成され,出院後の薬物乱用を止めさせる強力な一要因となりうる。
筆者は上記の背景を踏まえて,少年院において薬物・アルコールなど,いわゆる物質関連障害に関する教育指導を積極的に実施している。特に当院では,矯正教育の一環として教育指導を行っており,矯正教育に資する精神保健学的アプローチを軸としているところに特徴がある。今回,G1級施設(次章を参照)である当院において,最近の被収容少年における薬物使用歴の実態についてまとめたので報告し,現在取り組んでいる薬物教育指導プログラムの実施状況とその意義について考察した。
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