巻頭言
臨床医は発病論的治療観から脱却せよ
八木 剛平
1
1翠星ヒーリングセンター
pp.910-911
発行日 2004年9月15日
Published Date 2004/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405100542
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「治療のもとは疾患の病因研究です」(1998),「病因研究は,根本的治療につながる」(1999),「薬物療法の適応となる精神障害の大半が原因不明という現状なので,まず原因を解明することが先決である」(2001)。これらは日本精神神経学会の歴代の理事長の発言や論文からの抜粋である(傍点は筆者)。つまり根本的な治療は,病気の原因を発見してこれを除去すること,あるいは発病のメカニズムを解明してこれを阻止することであるという考え方で,これを発病論的治療観と呼ぶ。これによれば,いま私たちが用いている治療法は,進行麻痺のペニシリン療法を唯一の例外として,病因の解明を待って開発されたものではないから,いずれ「根本的な治療法」が現れるまでの「間に合わせ」に過ぎないことになる。しかし本当にそうだろうか。
次に,第26回日本医学会総会(2003)における精神科領域の主題は「精神疾患の解明・克服」と題され,「精神疾患の解明-精神分裂病の病因をめぐって」と「精神疾患の克服-精神分裂病の治療戦略」の2つのシンポジウムから構成された。ここでも「(病因)解明」と「克服(治療戦略)」がワンセットになっている。解明のための諸仮説と克服のための諸戦略との間の溝はあまりに深いので,「研究は未来に,臨床は現在に」とでも考えて諦めるほかない。
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