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はじめに
心療内科と精神科の住み分けについては,わが国に心療内科を導入した故池見酉次郎(九大心療内科初代教授)以下,故石川中(東大心療内科初代教授),鈴木仁一(東北大心療内科初代科長)らはそのことを重要事項と考えていた。わが国における40年の心療内科の歴史は,内科の中での位置づけと精神科との住み分けのための活動に集約されると言っても過言ではない。
人間のストレス反応は,頭痛や発熱などの身体症状(身体化),不安やうつなどの精神症状(精神化),さらに飲酒量や喫煙量の増加などに示される行動上の変化(行動化)の3つに大別される。このストレス反応として表現される身体症状を心身症としてとらえることが可能である。日本心身医学会の教育研修委員会は1991年に「心身医学の新しい診療指針」を作り,その中に心身症の定義(改訂版)を発表している。それによると心身症とは,「身体疾患の中で,その発症や経過に心理社会的因子が密接に関与し,器質的ないし機能的障害が認められる病態をいう。ただし神経症やうつ病など,ほかの精神障害にともなう身体障害は除外する」となっている。ここでいう器質的障害とは十二指腸潰瘍のように,十二指腸に潰瘍を形成しているものを意味し,機能的障害とは緊張型頭痛のようにストレスによって頭痛や肩こりが生じるが,現在の医学的検査では特に異常を認められないものを言う。心療内科の臨床において対象とする病態は主に心身症である。しかし,一方では歴史的に心療内科では症状や病気だけでなく,人間全体を診療対象とすべきであるという考え方(これは全体医学,総合医学などと呼ばれている)がある。池見の言うところのbio-psycho-socio-ethical approachである。心身症に限定しようとする狭義の心療内科と後者の考え方を入れた広義の心療内科が存在する。
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