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私たちに託された統合失調症の研究
私の母校である東京慈恵会医科大学は今年で創立124年目に当たる。そのなかで精神医学講座は開講102年目である。その関係で数年前より開講100年記念誌の作成に執りかかった。私は編集委員長として否が応でも,教室の歴史にとどまらず,改めて精神医学史を調べることになった。もともと医学史には興味があったので,むしろこれを機にさらに虜になった感がある。その記念誌に3代目教授の新福尚武先生からお聞きしたことで,興味深い一節がある。新福先生は,1937年,九州帝国大学の卒業である。恩師である下田光造教授は,新入医局員の訓辞として,次のように言われたという。「精神分裂病(統合失調症)という難しい病気がある。君達の世代に頼むぞ」。新福先生は正直に「分裂病は難しい。私は若かったからね。それならうつ病で成果を挙げてやろうと取り組んだ」とある。
確かに当時に比較すれば,病態,治療学に格段の進歩はみられていると思うが,実態はどうであろうか。隔離,長期入院治療から外来へ,また地域生活へ戻すためにいったいどのようなことが進行しているだろう。やはり統合失調症の治療は症状の鎮静が主体といえないだろうか。むしろ本来の精神活動も含めた過剰な鎮静を暗黙の了解としていまだに潜行しているように見える。なぜなら,地域社会に戻していくためには,今の治療方法では広い意味の鎮静は避けられない。すなわち治療方法が1952年以来の薬物治療に軸足があるからである。心理,社会,生物学的見地のバランスが取れているとはいいがたい。確かに症状軽快後の社会復帰,地域中心の受け皿として,形は進んでいるようであるが,むしろそのことが鎮静医療を促進しているようにみえることもある。
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