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はじめに
あらゆる細胞は静止時と増殖時で形質が変化する.血球細胞は様々なサイトカインの支配をうけて増殖しながら,成熟した分化細胞となるが,癌細胞は増殖時には幼若な形質を示す.骨格筋細胞では,MyoDやmyogeninなどの分化誘導遺伝子が増殖を停止させるとともに,筋特異的遺伝子の発現を誘導して分化が進行する.細胞の分化状態を判定する方法として,構造蛋白や酵素のアイソフォーム(アイソザイム)の解析がある.
一例として,筋細胞に存在するクレアチンフォスフォキナーゼ(CPK)のアイソザイムをあげる.心筋で発現するアイソザイムCPK-MBは,M型とB型のダイマーである.B型は脳に多く存在するが,胎児期の骨格筋にも大量に発現する.しかし,骨格筋が出生後,成体へと成長分化するのに伴って,B型は減少して大部分がM型となる.しかし,心筋では骨格筋ほどB型が減少せず,MB型のアイソフォームが多く発現する.このため,筋に含まれるB型の量を測定すれば,心筋や骨格筋がどの程度の分化状態にあるかを知ることができる.
骨格筋や心筋だけでなく,血管平滑筋も成長とともに分化する.平滑筋の分化と増殖は相反する関係にあり,増殖時の平滑筋は胎児期の細胞形質に似た状態となる.このことから,動脈硬化やPTCA後の再狭窄の病因解明に,平滑筋分化という視点をもつことの重要性がわかる.平滑筋を同定し,その細胞形質を鑑別するために,われわれは平滑筋で発現する3種類のミオシンアイソフォームSM1,SM2,SMembを研究対象としてきた.SM1とSM2は筋フィラメントに富む平滑筋に,SMembは膜様構造に富む平滑筋に多く発現する.
本稿では,ミオシンアイソフォームに視点を置いたときに,血管平滑筋の病態がどのように捉えられるかについて紹介する.
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