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近年,抗酸菌感染症を取り巻く状況が大きく変わってきている.かつては死因の第一を占め国民病と言われた結核であるが,抗酸菌症といえばまず結核を思い浮かべた時代から,今は非結核性抗酸菌(nontuberculous mycobacteria;NTM)症を見逃せない時代になってきた.病院,医院の様々な立場の医師,現場からNTM症の増加傾向を示唆する声があがっていたが,一昨年この疾患を対象としてわが国で初めて結成された厚生労働研究班が主体となり全国規模の疫学調査が実施され,肺NTM症が菌陽性の結核を上回る罹患率を呈する結果が示された.基本的には同じ抗酸菌でも結核菌がヒトを唯一の宿主とし,感染者の85%ではヒトの体内で生涯共生し続けそのまま最期を迎えるが,10〜15%においてはヒトの体内で増殖して発病させ,咳とともに飛沫にのって体外に飛び出し,飛沫核となって空中を漂い,子孫を残すため新たなヒトに吸入され感染する機会をうかがう.一方,歴史を振り返ると結核菌とNTMは同じ起源にたどりつくことがわかっているが,NTMは主に環境に生息しヒトに感染症を作ることが稀になった.さて,見方を変えれば,気道内は厳密には体外であるが,気道内という体外環境がNTMに適しているかどうかは別として,ヒトの体内はNTMにとり必ずしも住み心地がよくないのかもしれないが,どうしてNTM症になる人がいるのか,ホスト側の要因,菌側の要因の解明が待たれる.
さて,同じ抗酸菌である結核とBCG,NTMには多くの共通する菌体成分が含まれるが,そのために共通抗原を含むツベルクリン反応は,これらの感染を区別することができない.今後結核罹患率が低下すると,わが国でもBCG接種について見直しを迫られる時期が必ずや到来するが,他国からは結核罹患率が低下し誕生後NTMに曝露を受ける機会が増えるとBCGにより賦与される結核免疫が弱まると言われている.一方,BCG接種を中止すると小児のリンパ節NTM症や播種性NTM感染症が増加することが知られている.ヒトの免疫系は環境菌の曝露による刺激を受けながら成熟していく.現在NTMは約170菌種にのぼり,自然環境に存在する菌種も地域により異なることが知られている.それは環境菌により賦与される免疫能が国や地域によって異なり,それが後の疾病構造に影響している可能性もあり興味深い.
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