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HFpEF最近の話題
左室駆出率≥50%を呈する心不全をHeart Failure with preserved Ejection Fraction(HFpEF)と呼ぶ.心不全患者の約40%がHFpEFに分類されるとされてきたが,直近の米国メイヨークリニックからの報告では既に50%を超えるに至ったとされている(2014年AHAでの発表).HFpEFであれHFrEF(左室駆出率<50%の心不全:Heart Failure with reduced Ejection Fraction)であれ,左室拡張機能低下の程度に応じて運動耐容能や心不全症状の重症度が決まる.HFpEFの発症前要因として,高血圧歴,左室肥大,加齢,女性が知られており,HFrEFの主たる発症主要因が虚血性心疾患であることと比較して明瞭に異なる.HFpEFの非代償化要因としては心房細動の合併や収縮期高血圧が指摘されている1).HFrEFについては,エビデンスに基づき心不全治療のガイドラインに提示された明瞭な治療戦略があるが,一方で血圧のコントロールされたHFpEFに対して予後改善作用を有する治療薬は同定されてこなかった2).加齢や性別はそもそも治療できない.HFpEFの頻度が増し,さらにその治療法が確立されていない現状において,HFpEF研究の成果を臨床に還元することが強く求められている.
最近報告されたHFpEFに関するいくつかの話題を紹介する.①HFpEFのリスクファクターである高血圧や糖尿病では酸化ストレスが亢進しており,それが血管内皮のNO産生を妨げ,隣り合った心筋細胞へのNOの拡散が減少してその作用が十分でなくなる.グアニル酸シクラーゼはguanosine-5-triphosphateのcGMPへの変化を触媒する酵素であるが,膜結合型のグアニル酸シクラーゼは心房利尿ホルモン,脳性利尿ホルモンなどのレセプターとして働き,細胞内可溶性グアニル酸シクラーゼはNOのレセプターとして働く.利尿ホルモンあるいはNOの結合によりこの酵素が活性化されセカンドメッセンジャーであるcGMPが産生される.産生されたcGMPはさらにcGMP依存性のプロテインキナーゼ(PKG)を活性化する(NO-cGMP-PKG系).このNO-cGMP-PKG系の障害は左室求心性肥厚,titin(心筋のスティッフネスに関与する蛋白)のリン酸化障害による心筋細胞の硬化,間質へのコラーゲン沈着増加などを介してHFpEFの発症に関与する.NO-cGMP-PKG系を活性化するphosphodiesterase-5阻害薬やneprilysin阻害薬のHFpEFの予後改善効果に注目が集まっている3).②HFpEFにおいて野生型トランスサイレチンの心臓への沈着が年齢,性の一致した対照に比べ,より高頻度に認められることがメイヨークリニックから報告された.HFpEF患者中,老人性全身性アミロイドーシスの部分症として心臓にトランスサイレチンが広範に沈着する症例が5%程度にみられ,これらの患者におけるHFpEFの原因は心筋へのアミロイド沈着であると結論している.また,たとえトランスサイレチンの沈着が比較的軽度であっても,その程度は心筋線維化の程度や心筋重量の増加と正相関したと報告している.心筋へのトランスサイレチン沈着は非可逆的であり,このような病態に対する根本的な治療法はない4).③さらにメイヨークリニックからHFpEFの68%が冠動脈造影で証明された虚血性心疾患を有しており,虚血性心疾患を有するHFpEF患者は有さないHFpPF患者に比べ,後の左室駆出率低下の程度が大きく,加えて死亡率が高かった.完全冠血行再建を受けた患者は不完全冠血行再建に終わった患者に比べ,左室駆出率低下が軽度で死亡率も改善されたことが報告された.HFrEF患者のみならずHFpEF患者においても冠動脈造影,その結果によっては完全冠血行再建が重要であることを示唆する報告である5).④左室駆出率40%以上あるいは45%以上のHFpEFに対する薬物療法として,アンジオテンシン変換酵素阻害薬・受容体拮抗薬,β遮断薬の効果の検証がなされてきたが,その予後改善効果は明らかには示されていない.最近,左室駆出率45%以上のHFpEFに対するスピロノラクトンの効果を検討した前向き大規模臨床研究TOPCAT6)において,スピロノラクトンが心不全入院を減少させたことは朗報である.TOPCAT研究は米国とロシア,ジョージア(グルジア)において行われたが,両地域において患者の年齢,心不全重症度などに大きな差があったことが判明している.より重症心不全を多く含む米国のデータのサブ解析において,スピロノラクトンは心血管死および心不全入院の複合一次エンドポイント発生率を有意に減少させており,HFpEFの治療に関する大規模臨床研究において初めて予後改善効果を示した結果が得られている.ただし,スピロノラクトン投薬群では非投薬群に比べ,高カリウム血症や血清クレアチニン上昇が高率に認められたことに留意する必要がある7).
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