巻頭言
脳循環とPET
藤島 正敏
1
1九州大学
pp.801
発行日 1986年8月15日
Published Date 1986/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404204904
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1945年KetyとSchmidtによって開発されたN20法は臨床脳循環研究の新しい幕開けとなった。しかし本法によって得られた各諸量(脳血流量,脳酸素消費量,脳グルコース消費量)はいずれも脳全体としての値であり,局所性に欠けていた。1960年代に入ると放射性ガス85Kr,のちには133Xeを用いた局所脳血流測定法が開発された。改良を加えて今日では非侵襲的な吸入法として広く臨床応用されている。この方法の特微は両脳半球の局所における灰白質および白質血流量が算出できることである。しかし測定深度が浅く,ごく脳表部に限られ,しかも脳代謝に関する情報が全く得られない。
脳組織はエネルギー源として酸素とグルコースを必要とするが,そのほとんどは脳血流で供給される。これら基質の脳貯蔵能は極めて小さく,阻血数十秒で枯渇してしまう。生理的な状況では脳血流と代謝は平行して動くが,脳卒中急性期,hypoxia,低血糖,貧血などの病的状態では両者に不一致(uncoupling)を生じる。例えば脳血流は減少しているのに酸素代謝は保たれたり(miseryperfusion),逆に代謝が低下しているのに血流が過剩になったり(luxury perfusion),脳血流ではなくむしろ脳代謝率によって脳の機能状態を捉えることができる。したがって脳血流のみ測定可能な133Xe法では十分な病態の解明はできない。
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