巻頭言
創造的な知識と受け身の知識
大久保 隆男
1
1横浜市立大学医学部第一内科
pp.1215
発行日 1984年12月15日
Published Date 1984/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404204557
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医局の人達の研究テーマをきめたり,内容を理解して研究グループの方針決定に意見を述べたりする必要に迫られる立場に身を置くようになり,その結果,最近になって必然的に数多くの論文や関連する雑文に目を通すようになりました。そのような日々を過ごすうちに,ふと奇妙なことに気がつきました。読書によって知識を獲得すると云うことは何と楽なことか,と云う事です。
思い返してみますと,私がこれまでに取ってきた読書の方法は,研究室なり,groupなり,個人で持った疑問や学問への問題意識を通して,それを自分の研究を通して自分で解決し,それに関連した本を読むと云う事が主であったように思います。このようにして獲得された知識は,それが自分で見い出した新知見であれ,本で読んだものであれ,知識として完全に自分の身についたように思います。私は,そのような勉強の仕方を不思議とも思わず,毎日を過ごしてきたわけですが,しかし,これは考えてみると随分と不自然な勉強の方法であったようにも思います。一般的な読書の場合は,極言すれば,書物の知識を明確な動機づけなしに—あるいはactiveな動機と云う方が適切かも知れません—,且つ知識を得ると云うそれ自身の目的のために読み,それを記憶するのだと思います。難かしい患者を持った場合にも,それに関連した書物を色々と読みますが,この場合の読書の態度も受け身であって,更にその知識の確実性を確かめる方法もないわけです。
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