巻頭言
病態生理学研究の在り方
杉本 恒明
1
1富山医科薬科大学内科
pp.411
発行日 1978年5月15日
Published Date 1978/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404203188
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甲状腺中毒症において,心筋収縮性の低下が起りうるか,起るとすればどのような状況下においてであるかについて少しく古い論文であるが,Taylorの実験(1970)を紹介したい。サイロキシンを予め投与したネコの右心室乳頭筋について,その収縮性を静止時筋長と発生張力との関係において検討したものである。これによると,甲状腺ホルモン投与後,心筋収縮性は増強するが,その程度は刺激頻度に依存し,刺激頻度の遅いときには増強が著しいが,頻度が増すに伴い増強の程度は小さくなり,やがては逆に収縮性が減弱する場合もみられるという。また,そのような心筋収縮性の低下は静止時筋長の短いときに明らかになるとしている。これは甲状腺中毒症における心筋収縮性低下が心筋ハイポキシアにもとづくものであることを示す実験の一部なのであるが,ここにあげたような現象が観察されたということだけでも,われわれ臨床医にとってはきわめて大事なことなのである。この現象をいいかえていうならば,第1に,甲状腺中毒状態では心筋収縮性は亢進しているが,一旦,頻脈になると収縮性は低下し,心不全を生じうるということである。頻脈時には心室容積は小さくなり,静止時筋長が短い状態となるので収縮性は一層低下することになるであろう。
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