巻頭言
レーザ光でミクロの計測
小山 富康
1
1北海道大学応用電気研究所
pp.763
発行日 1977年9月15日
Published Date 1977/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404203093
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月面に設置された反射板めがけて地球上から発射されたレーザ光は38万kmの空間を旅して月面に至り,反射板ではねかえって地上へ還ってきた。この光を地上の天文台の望遠鏡は正確に捕え,反射板と天文台間の距離を測ることができた。このとき用いられたレーザ光の出力は僅に3ワットに過ぎなかったといわれる。また地球上で発射されたレーザ光を月面上で写真にとることもできるという。ところがネオンまたたく大都会の夜の光は何万キロワットの光量をもちながら月面に反射して夜半の月光を増強させることはない。普通の光が幅広い連続的な周波数成分をもっているのにたいし,レーザ光は原子のエネルギー変換過程に由来する単色光であり,時間的にも空間的にもコヒーレンスがよい。このため光エネルギーの散逸はきわめて少ないから,遠くはなれた月面を地上からの光で照らすことも可能となったのである。レーザ光のこのととのった,コヒーレントな光という性質は大空間を股にかける計測だけでなく,ミクロな計測をも可能にする。即ち,ととのった光が微粒子に衝突して散乱されると,粒子のミクロン単位の粗さに応じて変化するスペックルパタンを生ずる。これは平滑面上の微細な凹凸の検出に用いられる。白内障のレンズに照射すればレンズ内の蛋白質の凝集変性の度を示すという。
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