巻頭言
アナムネーゼ
広沢 弘七郎
1
1東京女子医科大学心臓血圧研究所
pp.287
発行日 1973年4月15日
Published Date 1973/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404202478
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心臓病といえば先ず弁膜症と出る。心臓病の代表みたいで,理解もしやすい病気と思われがちな病気であるが,年と共に多くの症例を経験し,また,一人の患者について10年20年と経過を見,また年数は少なくとも死に至るまで数年以上の経過を見守っていると,この病気が決して単純なものでなく,様々なパターンと,様々な重症度を持つことを痛感する。しかも,聴診所見一つを採りあげてみても,毎回かなり変動し,大事な所見が聴こえたり,聴こえなかったりすることもある。弁変形の形態学と機能,心筋の病理解剖学と生理学的機能,それに冠循環の病態と生化学等の総和がこのような素朴な臨床所見の変動となって現われるのであろうが,臨床に携わる者としては神秘的な思いをすら感じる。
本号には小特輯として,血行力学的にみた大動脈弁膜症を企画し,四人の著者にそれぞれ専門家の立場から書いていただいた。それぞれかなり詳しい解説をいただき大動脈弁膜症の臨床的把握に大いに役立つと思うが,病気の本態の100パーセントからはまだ遠い。臨床家が患者を診療していくためには,結局は残された何十パーセントを,実感を足場にして無理にまとめていかなければならない。その理論的な解明と実際的な最終的な処理のためにもアナムネーゼに出発した素朴で熱心なアプローチが厳しく求められる。入院してもらって,機械的に特殊検査と称せられるものを行ない,曲線か数字が出たらおしまいというものではない。
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