巻頭言
呼吸生理への一つのねがい
小林 庄一
1
1新潟大学医学部生理学第二教室
pp.371
発行日 1972年5月15日
Published Date 1972/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404202375
- 有料閲覧
- 文献概要
呼吸生理の領域にふみこんで気づくことは研究領域の多様性である。それは,呼吸器系の力学,ガスの拡散,血液ガス,酸塩基平衡,換気の化学的・神経的調節,呼吸筋運動系の活動,それらの病理生理などである。そして,これら研究領域の多様性にしたがって,その研究方法,手技,使用機器のちがいも大きい。
近年の研究の著しい進歩は,一人の研究者がこれらすべての領域の最先端の研究を行なうことはもとより,それを理解することすら困難にしてきている。その結果,研究の対象はますます細分化され,専門化される。細分化,専門化自体は,個人の能力や機材の制約などのためやむをえないことでもあるし,むしろ,最先端の研究が効率よく行なわれる利点もある。しかし,研究分野の細分化は,その関連分野の研究の理解に無関心であることであってはならず,有機体総体の機能を見失ってはならない。多くの学界において,ある領域の業績が他の領域の研究を著しく推進した事例は少なくない。このようなことは,すでにいい古されたことではある。しかし,呼吸生理の領域においては,それが医学の中の生理学という分科の,またその一分野であるにもかかわらず,それぞれの細分分野の相互理解と有機的協調がことに不十分であると感ずるのは筆者だけであろうか。
Copyright © 1972, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.