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はじめに
各種肺機能検査の中で換気力学というと何か数学を縦横に酷使して初めて正解が得られる高級な学問かのような印象をいだく読者諸兄もいられるかと思うが,しかし決してそうではない。もしそういう印象をいだく諸兄がいたとしたら,著者をはじめとして数学が嫌いで医学部に入った人々の潜在的な幻想以外の何ものでもない。事実後述するように換気力学に入るための数学的素養は小学生程度の掛算,割算のみで十分であり,むしろこの数学的背景より,いかに信憑性のある,いいかえれば評価に耐えられる一つ一つのデータを測定するかという技術的な素養の方がより重要である。なぜなら信憑性の乏しい個々の測定値をいかように数学的に処理しようとも得られた結果はむろん信憑性に乏しく,かつ臨床的意義についてもきわめて疑問であるからである。
さて換気力学の各種呼吸器疾患およびその他の疾患における主要な臨床的意義は現在肺機能検査の中でルーチンテストとしてもっとも広く用いられているスパイログラフィーの分析からえられる換気機能障害をより精密に把握し,かつ適切な対策を確立することにある。
換気障害は1948年Baldwinら1)の提唱以来,「閉塞性」および「拘束性」の2つのpatternに分けて考えられているが,これらはむろん日常臨床において主としてスパイログラムの分析から比較的容易に分けられる。このことはとりもなおさずスパイログフィー自体高度の換気力学的要素を反映しうるものであることを示すが,しかしスパイログラフィーから得られるinformationには大きく分けて2つの限界がある。1つは病変の局在性がdetectできないこと,2つには被検者の最大努力を前提条件としている--以上の2点である。この2点の限界から脱脚してより精密な病態の把握にこそ換気力学の使命があり,この点の理解こそ本稿において著者のもっとも意図するところである。
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