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はじめに
生体用変換器に応用できそうな半導体素子(semicon—ductor element, S. C. E.と略称)にはいろいろな種類がある。最も重要な評価はこれらS. C. E.の採用により従来の同じ機能を持った変換器より性能的に機能的に改善があるかということである。最近の家庭電化製品をはじめ,コンピューター,通信装置などへのS. C. E.の使用は一般化し,"all transistorized"すなわち優秀品というイメージを大衆に与えている。
確かにこの分野での発展は瞳目に価し実益の程は測りしれない。その裏にはS. C. E. の性能に加えて設備投資に逆比例したコスト低下がはなはだ特長的である。身近なIC形演算増幅素子は20ヶ以上一括購入すると目下¥3,300〜2,000と安価となり,¥1,000以下になるのは来年度中とも噂されているし,デジタル計算器の計算素子は数百円台である。これは利用面の拡大あってこそ成立するわけである。しかし以上のようなS. C. E.利用に関する社会常識はそのまま生体機能計測の分野で成立しない。
具体的に説明すると測定対称となる信号変化の種類と性質によるのであって,電算機,音響,TV,通信などで取扱う信号はすべてパルスなどの交流信号,すなわち生体では心電,心音,脳波,脈波などと規を一にするものである。交流信号の特異性はその変化信号の中に信号測定の基準位となるゼロ信号レベルを包含しているか,またはゼロ基準位が不詳でも信号変化の振幅や波形だけみれば信号の性質や程度を十分判定できる点にある。これに対し血圧,血流,温度,物質濃度や分圧,透過光量,容積変化などの信号にはもちろん周期的脈動部分も含まれるが,その部分の程度を知るためにも信号自体の中には含まれていないゼロ基準位をも同時に測定しなければならない。すなわち血圧100mmHgを測定したという裏にはその測定器は大気圧を0mmHgと測定できなければならない。この0mmHgが血圧測定のゼロ基準位である。したがってこれらの信号を直流または直流+交流信号という。S. C. E.の信号変換機序は後述するように外来刺激によってその電気伝導度が変化するが,この伝導度変化は外来刺激のみでなくて周囲環境の変化によっても容易に変動する点がS. C. E.の最大の弱点である。
さて測定対称による伝導度変化A分と,周囲環境変動による伝導度変化B分とを和Cの形で測定するが,AとBとによる伝導度変化は本質的にまったく同一物である。したがってCからAを精度よく測定できるための条件は(1) BがAに比し無視できる程小さいか,(2)Bが測定中一定不変で相殺可能であるかにかかっている。S. C. E.ではA分は従来の変換方式によるより数倍ないし数百倍大ではあるがBもまた十分人きい。A/B比の大小はS. C. E.の最終価値判定の根拠となる。S. C. E.本来の特長である大きなAを十分活用できるかという一点に技術者の課題が存在する。こんなわけでS. C. E.の特長であるmicro,軽量,高変換効率,廉価などが実用品に十分活かされているとはお世辞にも今はいえない。具体的に圧力計の感度の一つの表示法,すなわちgauge factorで比較すると,S. C. E.ピエゾ歪素子は従来の細線抵抗歪素子に比べG. F.が100倍以上ある。これはS. C. E.圧力計は従来のwire strain ga—uge圧力計より100倍以上高感度であろうと素人は信んじてしまってより高価な新形圧力計をつかまされてしまう。実体はG. F. 100以上とは物理実験のような理想的使用条件下で実現するのであって,市販段階のS. C. E.圧力計では温度や強度の補償,再現性,直線性などの実用面からの制約のはねかえりの代償がG. F.の犠牲によってつぐなわれていてG. F.は数分の1に落されている。したがって学会発表などでみたmicro disc圧力計が市販品では太いWurst状になっていてcustomerは失望させられる。すなわち学会発炎の成績は温度の面(血液中)からB分を一定に保ったときのものであったという裏話になる。こんな意味から市販のS. C. E.ピエゾ歪素子で変換器を自作するさいには素子がP & N温度補償形としても直流的生体信号を相手にすることはなかなか困難で,素人にはbonded wire strain ga—ugeやprinted foil gaugeの方が具体的に使いやすい。したがってS. C. E.を用いたカテ先形心音マイクなどの国産品がないのはただ努力不足のためで何も今さら珍奇な応用ではない。しかし心内圧力計をと意図すると大変な研鑽と投資が要求される。
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