巻頭言
公害に関連して思うこと
杉山 浩太郎
1
1九州大学医学部付属胸部疾患研究所
pp.1019
発行日 1967年12月15日
Published Date 1967/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404201845
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人力による自然の収奪と変化,遂には広範囲の破壊という一連の事態がこの頃とくに目につく。人類はその頭脳によって常に自然環境に適応してきた結果,今日の繁栄をきたしたとは,生物学の教えるところであるが,そのすぐれた頭脳の所産である科学技術が,今まで適応し調和してきた自然を破壊することあまりに急であるために,すでに適応可能の限界をこえてある人々を疾病の状態に追い込んでいるのも周知の事実である。各種の工場または内燃機関などから出される煤煙,排気,廃液,農薬などの化学薬品,騒音,巨大な建物や都市など,至るところ技術の所産が逆に人間を傷つけている例をみることができる。いわゆる公害として論じられているものの多くがこの範疇に入るであろう。近頃,公害についての議論がしばしば行なわれるようになった。そのさい感ぜられることは,第一にこのような科学技術の招かれざる副産物に対する科学者自身の見通しの甘さもさることながら,好ましからぬ事態の発生に対して,少なくとも過去においてはしばしば拱手傍観的ではなかったかということについても反省されなければならないということ,第二に世間の人々の意識の根底にある,科学技術の発展が人類の繁栄をもたらし,その発展の果実を大規模に実施応用することが国や地域社会の繁栄につながるとする安易な考え方も,またその考え方の下に事態を資本の法則のおもむくままに委ねてしまう迂濶さにも問題があろう。
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