巻頭言
研究の信頼性
橋本 虎六
1
1東北大学医学部薬理学教室
pp.195
発行日 1963年3月15日
Published Date 1963/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404201185
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若い時であるが,薬学科の落合教授(現名誉教授)の教室にミクロキエルダールの操い方をならいに行った。まあ兎に角,いついつ来いとの事で更に又ミクロキエルダールの装置はどこどこの器具でなければいけないと云われた。約束の時に出掛けると待つて居たと云うわけで,定められた実験台に案内されて,婦人のテクニシャンを紹介され,「君,天秤の使い方を知つているかい。」と云われた。一寸グツときた私の顔をうかがつて,「文句を云わずこの人にならえよ,この事に関してはこの人の方が君の先生なんだから,ウン」とせつかちに彼女と私と等分に目をくばつて,「先ず,パラアミノ安息香酸から始めるんだな」とさつと引きあげられた。午後になると津田助教授(現応用微研教授)が廻つて来て,まあまあと云う調子であつた。来る日も来る日も落合教授,津田助教授とで午前午後とせめられつづけだつた。自ら虜になつたのだから止むを得ぬ。何糞と思つて,こちらもねばりにねばり,腹の虫をおさえおさえ彼女に教わつて,兎に角成績を出す。「フン割合あうな。次はこれを酸化しろ,むずかしいぞ」と出されたのが確かキサンチンか,尿酸か,この部類のプリン誘導体だつたとおぼえて居る。もう少し続ければもつと確な値が出る。もう少しやれと云われたのだが化学の分析とは違うのだし,そうそうせめられては耐らない。勘弁して戴いて2週間で無理に年期を終えさせてもらつた。
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