巻頭言
心臓外科生活25年
小沢 凱夫
1
1大阪大学
pp.643
発行日 1956年9月15日
Published Date 1956/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404200408
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私が心臓外科に数うべき手術を甫めて行つたのは,昭和6年11月30日であります。当時病理学の恩師の令嬢が心嚢炎に悩んで居られ,寧ろ手術を受けるに然かずと考えて,先生親しく私の所にDelormeの手術書を示されて斯様に手術せよとの御申入れがありました。夕闇迫る午後7時頃手術が終り,輸送車が静々と手術場を出ましたが,御待ちになつて居られる筈の先生御夫妻の姿が見られません。誰云うとなく先生御夫妻は屋上の御稲荷様にお祈りに行かれたと云うことであります。此の時私は将来外科医として一度は心臓外科の分野に踏み込んで見たいと云う気持が油然と起つたのであります。そして将来心臓外科が実を結ぶ場合は神信心に頼ることなく安心して此の種の疾患を救い得べきであると堅く信じたことがあります。爾来春風秋雨20余年の歳月が流れました。
此の期間は欧米の外科医も其の成績の香しからざるに失望して放擲して居つた時代であります。幸に私は熱心なる多数の教室員の撓まざる努力によつて今日迄相当な成果を此の分野に挙げることが出来ました。
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