発行日 1956年3月15日
Published Date 1956/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404200341
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私どもはここ数年,呼吸及び腸管運動の研究に従事しているが,実験にはほとんどすべて無麻酔・除脳動物が用いられている。このような動物で実験してはじめて気ずいたことであるが,神経や藥物の作用が従来の麻酔動物実験の場合とは非常に差があり,しかも最も注目すべきは,その差異が一見量的ではなく質的であることである。たとえば無麻酔・除脳イヌでは胸廓内迷走神経刺激は常に腸運動亢進的に作用するのに,麻酔イヌでは全くその逆に抑制的に作用し得る。acetylcholineも深麻酔イヌの腸に対しては完全に抑制的に作用し得る。もう一つの例をあげれば,無麻酔・除脳イヌでは腹大動脈を圧迫して腸に無酸素症anoxiaを起せば,腸の運動は亢進するのに,麻酔イヌでは抑制が起る。呼吸反射でも麻酔によつて反応が逆転し得る。
麻酔法が発見されて以来,例外を除けば,哺乳類についての生理学実験の大部分は麻酔動物で行われており,一般に麻酔は生体の機能を量的に低下させるが,質的変化までも伴い得るものとは考えられていなかつたように思われる。少くとも腸管運動に関しては,実験成績の混乱錯雑の一因は麻酔法の適用にありと言わざるを得ない。
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