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はじめに
近年,慢性腎臓病(chronic kidney disease;CKD)患者数の増加に伴い,その対策が急務となっている.わが国における慢性維持透析患者数は2010年に約29万人となり,その医療費は約1.5兆円と国民総医療費33兆円の約5%に上っている1).
現在,腎機能評価は国際的に糸球体濾過率(glomerular filtration rate;GFR)を用いることが提唱され,日本腎臓学会でも2012年にGFR推算のための日本人式が発表された2).このガイドラインでは,20歳以上の日本人においてGFRが60ml/min/1.73m2未満(CKDステージ3~5)の割合は10.7%(約1,100万人)と推測されている2).CKDが心血管疾患や脳血管疾患などのリスクとなることも知られており,腎機能のより正確な評価と早期治療が求められている.
シスタチンC(Cystatine C;Cys C)は,アミノ酸120残基から構成される分子量約13kDaの塩基性低分子タンパク質で,生理機能の面からはシスタチンプロテアーゼ阻害作用を持つファミリーに分類され,ハウスキーピング作用遺伝子としてコードされている.Cys Cは全身の有核細胞で一定量かつ恒常的に産生され,年齢・性別・筋肉量・運動など細胞内外の環境に影響されず一定の速度で細胞外へ分泌される特徴がある.低分子量かつ塩基性蛋白質という性質から,自由に糸球体基底膜を通過し近位尿細管レベルで再吸収された後,大部分が異化・分解される.よって血中Cys C値は疾患による濃度変化が極めて少なくGFRを適切に反映するサロゲートマーカーとなりうる3).
従来,腎機能の評価には血清クレアチニン(Serum Creatinine;SCr)値が広く用いられていたが,この値は腎外因子の影響,即ち性別・年齢・筋肉量などによって大きく変動することが知られており,特に女性・高齢者・長期臥床者など筋肉量の少ない症例において,SCr値は低く,正確な腎機能を把握できない.このため,SCr値のみで腎機能を評価すると,腎障害があるにもかかわらず正常と判定されることもある.SCr値とCys CおよびGFRの関係を図1に示す4,5).同じ腎機能であってもSCr値には個人差によるばらつきも大きく,SCr値のみで軽度の腎機能低下を評価することは困難である.
本稿では,まず腎機能評価に用いるGFR測定について述べ,次にCys CとSCrの比較を中心に,CKD診療時の腎機能評価におけるCys Cの有用性とその限界について述べていく.
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