Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
はじめに
パルスオキシメータが正確かつ安価で携帯可能になり,日常診療で呼吸不全の診断が容易になった.一方で,動脈血ガスを測定する機会が減少し,特に,血液ガス分析装置を持ち合わせていない診療所では,酸素飽和度をチェックするのみである.しかし,動脈血ガス分析は呼吸不全の有無の他に,換気不全の有無,AaDO2によるガス交換障害の把握,酸塩基調節障害の有無などを評価し,病態の把握と治療方針を構築するうえで大事な検査である.
ここで,筆者らの忘れられない1症例を述べたい.
症例:78歳,男性.元大学教授.趣味は俳句で,入院中は私や病棟の看護師が俳句の題材になったこともあった.肺結核後遺症で,若いときに施行された胸郭成形術のためにⅡ型呼吸不全となり,酸素1l/分で在宅酸素療法を開始し,外来でフォローしていたが,年1~2回程度,急性増悪で入院加療を必要としていた.旅行中の急性増悪で入院のタイミングが遅れ,九死に一生を得るようなことがあってから,パルスオキシメータを購入し,常日頃,酸素飽和度を記録し,注意していた.ある日,トイレから戻った際にいつもよりも長く呼吸困難を感じ,酸素飽和度を測定したところ90%を下回っており,酸素濃縮器の酸素流量を上げていき,最大の3l/分にしたが,酸素飽和度は90%に達せず,携帯用の酸素ボンベから酸素5l/分を吸入した.少しずつ意識レベルが低下して来たため,家人が救急車を要請した.救急車の中では,救急隊員により10l/分の酸素が投与され,酸素飽和度は90%を超えていたが,搬送中呼吸停止となり,アンビューで呼吸管理したが,来院時には既に心肺停止状態であった.
Ⅱ型呼吸不全患者に高濃度酸素投与した際にみられるCO2ナルコーシスの典型的な例である.パルスオキシメータの表示だけに基づいた酸素療法は,このように危険である.
Copyright © 2012, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.