書評
―篠原 尚,水野惠文,牧野尚彦 著―イラストレイテッド外科手術 第3版―膜の解剖からみた術式のポイント
北川 雄光
1
1慶應義塾大学・外科学
pp.1183
発行日 2010年11月15日
Published Date 2010/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404101586
- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
私が,この『イラストレイテッド外科手術第3版』を手にしたのは,著者である篠原 尚先生が,私が執刀する胸腔鏡下食道癌根治術を見学に来てくださったちょうど一週間後の日本外科学会総会(第110回;2010年4月)の会期中であった.第3版で新たに加えられた食道癌根治術を読み進めていくうちに私は顔面蒼白となった.これほどまでに外科解剖を理解し,手術手技の細部に至るまで習熟している著者に対して,何という「釈迦に説法」のごときことをしてしまったことか.専門家ぶって蘊蓄を傾ける私に,優しい笑顔で「勉強になりました」とおっしゃった著者のお人柄が胸にしみた.
さて,食道癌根治術を安全かつ確実に行うためには,大血管や気道系,神経系が複雑に交錯する縦隔解剖の理解が必須である.時として術野では見えない部分の解剖を頭の中に描きながら手術を進めなければならない.直接臓器を触知できない胸腔鏡下手術や,切除可能性が危ぶまれる化学放射線療法後のサルベージ手術の場合などは局所解剖の理解不足が重篤な臓器損傷に直結する.立体的な解剖をどう理解させるかは,食道癌根治術経験の少ない若手を指導する際には最も難しいところである.本書では,正常解剖を適切な角度から巧みに紹介した上で,必要な牽引,術野展開を加えた際の位置関係の変化を順次提示している.この手法が複雑な解剖を極めてわかりやすくしている大きな要因である.また,いつもながら最小限の描線で立体感,臨場感のあるイラストに仕上げる技術はまさに圧巻である.写実的なデッサンではなく明瞭なしかも一定のルールに基づいた線や点,色調の濃淡で立体解剖を巧みに描出する技術は驚愕に値する.
Copyright © 2010, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.