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はじめに
QT延長症候群(long QT syndrome;LQT)は心電図におけるQT間隔の延長を来し,多形性心室頻拍(Torsade de pointes; TdP)から失神あるいは突然死を特徴とする重篤な疾患群であり,臨床的には先天性と後天性(二次性)に分類される(表1).先天性LQTは心筋イオンチャネルをコードする遺伝子変異を原因とし,一方,後天性LQTとは薬剤,電解質異常など後天的な外的因子によって二次的にQT延長を来すものを指す.薬剤性QT延長症候群も,他のLQTと同様にTdPを誘発し失神のみならず突然死の原因になる.その歴史は古く,1920年頃から抗不整脈薬キニジンの内服開始後に原因不明の失神発作を来す症例が多数報告され「キニジン失神」と称された.その後の研究でキニジンはQT間隔を延長させ結果としてTdPを誘発することで失神を起こすと判明し,薬剤性LQTの概念が広く知られることとなった1).
薬剤性LQTの原因薬剤としては(表2),循環器内科医は日常臨床にて抗不整脈薬によるものに遭遇する機会が多いが,米国食品医薬局(FDA)のまとめでは原因薬剤に占める循環器用薬の割合は26%に過ぎず,大多数は日常診療で用いられる“非”循環器用薬が原因となっている.実際に,消化管運動改善薬シサプリド,抗アレルギー薬テルフェナジン,アステミゾールなど多くの非循環器用薬が,強いQT延長作用のため販売停止を余儀なくされた.こうした事態を受け日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH)では「非抗不整脈薬におけるQT/QTc間隔の延長と催不整脈作用の潜在的可逆性に関する臨床的評価」についてのガイドライン(ICH E14)を市販前安全性調査の一つとして採用し,本邦では2010年11月以降の全ての新規医薬品申請においてその適用が義務付けられている.すなわちほぼ全ての新薬に関して,QT間隔への影響を検討する臨床試験が行われることとなった.
このように,薬剤性QT延長の臨床的重要性の認識は世界的に高まりつつある.
本稿では日常診療において薬剤性QT延長を早期に診断しTdPの発生を回避するポイントについて概説する.
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