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メタボリックシンドロームの歴史
心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化性疾患は,わが国の死因の大きな位置を占め,また働き盛りに突然発症するため,その予防対策は国内外で極めて大きな医学的課題になっている.これまで動脈硬化の予防は,単独で最も大きなリスクとされる高コレステロール血症の対策に大きな力が注がれ,スタチン製剤の開発などによって一応の成果が得られてきた.しかし,近年必ずしもコレステロールのみでは全ての動脈硬化が説明できないことが明らかになり,1980年代の後半から耐糖能異常,高血圧,脂質代謝異常(高トリグリセリド血症,低HDLコレステロール血症)などが一個人に複数集積しているいわゆるマルチプルリスクファクター症候群が動脈硬化性疾患の大きな基盤となっていることが,米国やわが国からシンドロームX,死の四重奏,インスリン抵抗性症候群,内臓脂肪症候群などの名前で発表された1~4)(表1).
このような複合リスク症候群が疾病単位として提唱されたのは,一つ一つの病態が偶然合併した状態であるのではなく,本疾患の病態を構成する糖代謝異常,高血圧,脂質代謝異常の上流にキープレイヤーが存在することが想定されたからである.当初はインスリン抵抗性という病態が全ての症状のキーになっていることが強調され,インスリン抵抗性症候群と呼ぶ提唱もなされる一方,内臓脂肪,腹部脂肪をキープレイヤーとする考えもわが国をはじめ米国のNIHを中心とした動脈硬化予防委員会(National Cholesterol Education Program;NCEP)などから出されていた.このようなマルチプルリスクファクター症候群は一時期シンドロームXからメタボリックシンドロームXと呼ばれたことがあったが,1990年代の終わり頃からXを外したメタボリックシンドロームという疾患名で統一されるようになり,国際糖尿病連合(International Diabetes Federation;IDF)のメンバーを中心としたWHOの委員会からと,NIHのNCEPの委員会から相次いで診断基準が発表された.WHOによる診断基準は原則的にインスリン抵抗性をキープレイヤーにしたもので,NCEPの診断基準では腹部脂肪を重要視したものであった.
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