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はじめに
閉経前の女性において虚血性心疾患発症率が低いのはよく知られていることであり,多くの基礎研究から,エストロゲンの持つ心血管系への直接的,間接的保護作用が明らかになっている1).エストロゲンは,脂質代謝,血圧,糖代謝といった冠危険因子に対する作用を介しての間接作用に加えて,血管に直接作用し,血管トーヌスや,内皮細胞や血管平滑筋細胞などの血管構成細胞の動態も調節している.血管内からのNOの産生促進,血中PAI-1の抑制,Lp(a)産生抑制,接着因子の発現抑制など動脈硬化の発生・進展を抑制する作用が認められている.家族性高コレステロール血症においてさえも,男性では30歳頃から心筋梗塞が発症するのに対し,女性では閉経前の発症はほとんどみられず,50歳頃から増加する.女性の卵巣機能は50歳をはさむ約10年間で急激に低下し,女性ホルモン(特にエストロゲン)の欠乏による種々の病的状態を引き起こすが,脂質代謝異常,高血圧,肥満なども閉経後の女性で増加する疾患であり,動脈硬化の発症を促進し,更年期から数年ないし10年を経て,動脈硬化性疾患をもたらす.
発症におけるタイムラグはあるものの,本質的には女性における動脈硬化のプロセスは男性と変わらないと,つい最近まで考えられていた.2004年5月に発行されたJournal of American College of Cardiology(JACC)の巻頭言に,Pepine CJによる「Ischemic heart disease in women;Facts and wishful thinking」が掲載された2).
米国では男女とも死亡原因の第1位は心血管疾患(cardiovascular disease:CVD)で,女性におけるCVDによる年間死亡率はフランス,韓国,日本の5倍である3).米国政府はCVDによる死亡を減少させるために,多くの予算を投じており,現在,盛んにいわれているGender-specific Medicine(性差医療)も,女性のCVDをいかにして減少させるかという医療のあり方の見直しから始まっている.米国では1985年に心血管疾患による死亡数において女性が男性を凌駕することとなり,それ以降着実に男性におけるCVDは減少しているにもかかわらず,女性では一向に減少傾向が認められない(図1).2004年のJACCの年次集会ではブッシュ大統領夫人が女性のHeart Diseaseの減少を訴える演説を行い,乳がんキャンペーンのred ribbonに対抗して,red dressピンバッジが配布された.
そのようななかで,Pepineは女性における虚血性心疾患の重要性と女性における虚血性心疾患の診断と治療のジレンマについて語っている.ことに狭心症について,「女性における狭心症は男性と表現形が異なるというよりは,gender-related biasが根本に存在するのではないだろうか?」「男性に当てはまることが,必ずしも女性に当てはまるとはいえないのではないだろうか」という問いかけをわれわれにしている.
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