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「私の一冊」というタイトルであるが,①②の二冊となることをお許しいただきたい.私は1986年に“病理医”という響きに魅力を感じ,病理学講座に入局した.消化管病理を専門とする教室であったが,研究(実験)に軸足があり,私の憧れた世界とは少し趣が異なっており,悶々とした日々を送っていた.ある日「胃と腸」という雑誌があることを知り,その母体となっている早期胃癌研究会に参加する機会があり“これだ!”と思ったが,私の育ってきた文化とは全く異なっており,別世界であった.1989年に“胃型腺癌”という研究テーマを,留学先のドイツでは1996年に“胃型腺腫”という宿題を与えられ,こつこつと実績を積み重ねてきたが,2003年当時の編集委員の目に留まったらしく,「胃型分化型早期胃癌の分子生物学的特徴」(38巻5号,pp. 707-721, 2003)と「胃腺腫の病理診断─特に胃型(幽門腺型)腺腫について」(38巻10号,pp. 1377-1387, 2003)という依頼原稿が立て続けに舞い込んだ.それまで,ボスに対する依頼原稿や病理診断アンケートなどに対してゴーストライターとして執筆・参加したことは何度かあったが,自分自身に対する直接の原稿依頼は初めての経験であり,大変うれしく,これらの特集号で私がこの業界にメジャーデビューしたと言っても過言ではない.
現在,早期胃癌研究会などで,胃型の形質を呈する(特に低異型度の)分化型癌が当たり前のように提示されているが,かつて,胃分化型癌は“腸上皮化生から発生する腸型腺癌”であるというのが定説であった.①は臨床的・病理学的に胃型腺癌が市民権を得るのに大きな役割を果たしたと思っている.一方,②で私たちは“胃型腺腫(幽門腺腺腫)”なるものを初めて紹介した.極めてまれなものとされていたが,報告される症例が散見されるようになり,徐々に認知される病変になってきた.
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