私の一冊
「胃型の分化型胃癌─病理診断とその特徴」34巻4号(1999年)
長浜 隆司
1
1早期胃癌検診協会中央診療所
pp.270
発行日 2012年2月25日
Published Date 2012/2/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1403113105
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私の胃癌診断学の基礎をなしバイブルでもある中村恭一先生著「胃癌の構造」の中で,胃癌の組織型は分化型癌と未分化型癌に2大分類され,それぞれの組織発生,発育進展,形態学的特徴,臨床的特徴について明らかにされている.消化器を志して間もなく先輩から胃癌の診断学をやるなら絶対に読んでおきなさいと言われた本であるが,当初は表現が難解であり十分に理解できなかったが,様々な症例を経験し,そのたびに何度も読み返していくうちに何とか自分なりに理解できるようになっていった.
しかしながら1990年代後半にどうしてもこれまでの解釈では説明のつかない症例に出くわした.2003年に「胃と腸」誌に一例報告として投稿した「組織異型が弱く2年7か月経過観察を行った胃型分化型sm癌の1例」(38巻5号,2003年)である.扁平な隆起性病変であったが,範囲がわかりにくく生検では構造異型,核異型が弱く癌とは診断ができないような病変であり,結果的に3年弱の経過観察を行った.組織は腺管形成の良好な明らかな分化型癌でありながら,形態的な特徴や発育進展が従来の分化型癌とは異なった症例であり,非常に悩みの深い症例であったが,ちょうどタイムリーに上記の主題が「胃と腸」で取り上げられた.胃型分化型癌の概念がまだほとんど認知されていない時代であり,臨床例は一例報告のみで,病理からの報告が中心であったが,今では一般的になった免疫染色法を用いた癌の粘液形質の判定を行い,従来の分化型癌とは異なる胃型の粘液形質をもった分化型癌があることなどが報告された.本号を読み終えたときには自分の頭の中の霧が晴れるようであった.
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