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月1回東京で開催されている早期胃癌研究会では,しばしば“まれな病変”が提示される.しかしその多くは,“まれな疾患ではないが非典型的な形態を示す病変”,あるいは“疾患の知識や経験がないために珍しい病変にみえるが,知っている人にとっては容易に診断できる比較的頻度の低い疾患”である.疾患を正しく診断できないことは,取り返しのつかない事態に発展したり,長期にわたって患者に苦痛を強いる結果になりかねない.そのため,消化器病を専門とする医師は,消化管の“common disease”だけでなく,比較的まれな疾患やまれな病態に対しても正しく診断できる実力を身につける必要がある.しかし,一人の医師が頻度の低い疾患のすべてを実際に経験することは不可能である.そのためには日頃から症例検討会に参加したり症例報告に目を通したりして,提示されているさまざま疾患を数多く記憶にとどめて“疑似体験”しておくことが大切である.
筆者は1981年より早期胃癌研究会へ参加するようになり,多くのまれな症例を“疑似体験”するとともに,画像所見を表現する言葉の言い回しを学んだ.参加して間もないころ,Cronkhite-Canada症候群の胃病変が提示されたことがあり,その数か月後に“スキルス胃癌か悪性リンパ腫のようにみえるが,生検しても診断がつかない”という症例が他院より紹介され,学内の症例検討会で提示された.出席した医師はそろって首をかしげていたが,筆者は早期胃癌研究会でみた症例とよく似ていたため,“Cronkhite-Canada症候群の可能性があるが,脱毛,爪の変形,低蛋白血症などはありませんか”と発言したところ,提示した医師は“たしかにあります”と答えた.周りにいた医師が誰も知らなかった疾患を言い当てることができ,大変気をよくした記憶がある.その後も何度か同様の経験をし,消化管形態学というのは疾患を知っているかどうかで大きく差が出ると痛感している.
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