Coffee Break
見る 12.神の手から人へ
長廻 紘
pp.1953
発行日 2013年12月25日
Published Date 2013/12/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1403114030
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医学の歴史は見えないもの聞こえないものを,いかに「見聞」するかの歴史であった.外から視る(視診)触れる(触診)打つ(打診)などといった方法で,いわば群盲像をなでるといった風に診断するしかない時代が長く続いた.比較的客観性をもって人体内の出来事が分かるようになったのは,心臓や肺の音を聞くことができる聴診器の開発まで待たねばならなかった.聴診器を有効に使いきれるようになるには長年の修練,努力が必要で,使える人に名医の名が冠された.
現代では,人体内部も形だけでなく働きまで丸見えと言ってよい状態にまで至った.まず実用化されたのは身体の中へ入って行って内腔をくまなく見る内視鏡.癌が,しかも早期の癌がたくさん診断され,大きな驚きをもって世に迎え入れられた.次いで,身体の外から内部を,内視鏡の入ることのできない実質臓器の中を診る,CT(コンピューター断層検査),MRI(磁気共鳴イメージング),PET(ポジトロンCT),超音波検査などによって,身体の奥,隅々まで詳細に見うるようになった.手術のうまい外科医に神の手という尊称が奉られることがある.特殊な才能は少数の人しか救えない.すべての人を救える技術にこそ「神の」という形容がふさわしい.
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