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近頃,海外を旅行する機会に恵まれて思うことは,この分類が胃の診断とか病理の進歩に寄与して来たことは大変なものだということである.この10年間で,最も深い印象は,いくら説明してもこれは肉眼的分類ではなくて,内視鏡的分類であると思い込んでいる人が5年目位では驚く程多かったということである.そして今や,この種の誤解が外国で多いことも,かつての日本と同様なのである.この見地から見ても,多少の不便さはあっても,この分類を容易には変えて貰っては困るという実感がある.
分類というものは,起草のときには明瞭な目的があり,その目的のために,かなり思い切った単純化した基準があるものである.その基準を変えてしまっては,たとえ一見して便利なようになったとしても,その思想の根底に於て複雑化し,かえって本来の目的を達成し難くなるばかりでなく,下手をすると,昔の症例との比較もむずかしくなってしまうであろう.早期胃癌のこの分類では,手術した時の肉眼的の形で決めるのが適当と思われるのであるから,更に詳細に,組織学的に見て,将来おそらくこういう型に変って行くであろうなどという予見から,その型を決めてしまっては困るのだ.例えば,その分類が不充分だからといって,もともとはないボールマンⅤ型と言ってみたり,Ⅱc進行型と言いたくなるような型のものを,ボールマンⅣ型ではない,などという言い方は,余程注意しないと,混乱を招く危険がある.むしろ,そういった予見を議論するための共通の言葉として分類の各型名を使用すべきなのであろう.所謂,Superficial Spreading Typeという病変の動きを規定した名称が,どうもうまくなじまないのも同じ理由であると思われる.
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