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早期胃癌の発見または胃癌の早期発見は,日本の消化器s科の医者のお家芸となって久しい.しかしながら,胃癌の早期発見の歴史をふりかえると,欧米に数々の業績のあることを知る.1973年,NewYorkのMemorial病院のEwingは“The Beginnings of Gastric Cancer”と題する論文の中で,“early”という語を用い“early curable stage”の癌を早期胃癌としている.型としては“Superficial eroding carcinoma without tumor formation or excavation”と述べているところから察すると,日本の早期胃癌のⅡc型を指しているらしい.同じ頃フランスでは,GutmannがⅡc型の早期胃癌を経験しているが,仏語で書かれたその著書は,余り読まれていないようだ.1942年,コロンビア大学外科病理のStoutが,固有筋層に達しない胃癌15例を経験し,これらは表層性に横に拡がったと考え,“Superficial spreading type”と名付けた.うち9例は,癌が消化性潰瘍の辺縁におこったと解釈された.つまりⅢ+Ⅱc型またはⅡc+Ⅲ型である.他の例はびらん状を呈し,Ⅱcに相当する.その後も早期癌または表在癌に関する報告は少なからずあるが,大きなシリーズをまとめたのは,Mayo ClinicのFriesenで,1962年,“Superficial carcinona”と題する論文の中で,ⅡcまたはⅡcとⅢの混合型,つまり陥凹型を記載した.報告された症例は,X線で胃潰瘍と診断され,手術後癌性潰瘍と判明したものや,偶然潰瘍の近くに癌を病理学的に発見したもので,早期胃癌ⅠおよびⅡaの如き隆起型について,Friesenは“Raised lesion”の存在可能性をのべているだけで,実例を挙げていない.Raised growthを示すものが表層性であるとき,これが真の“Superficial carcinoma”だと述べている.Stoutには全くこの記載がない.アメリカで,内視鏡的に術前確診されたRaised lesionは,私の知る限りでは“シカゴ大学で発見された早期胃癌の1例”(胃と腸,5:365,1970)が最初である.これほどの先人を輩するアメリカで,胃癌の診断学が日本に比べて遙かに遅れた理由は何か.私の2年半におよぶ滞米中,特にこの分野に携ったものの見聞を少しばかり述べてみたい.1969年ワシントンのアメリカ内視鏡学会で“Gastroscopic diagnosis of early gastric cancer based on Japanese classification”を発表したとき,Dr. RumbalはDr. 小林の研究の評価はむずかしい.何故なら,このような早期胃癌は,米国では極めて稀だから.とのコメントを述べた.また小黒博士と私の両者に,“Ⅱa型の病巣で経過をみた例はないか”との質問が投ぜられた.欧米では今も,癌としての生物学的特性,即ち人を死に到らしめるか否かを問題にしている.Dr. Mersonの早期直腸癌に関する定義の如く,invasive carcinomaでなければ癌といわない人々がある.その立場からは,日本でいうⅡa型病変に,Carcinoma in situ或は異型上皮的なものを,時に含めているのではないかとの疑問は生ずるであろう.私共は後にⅡc型早期胃癌例を見つけ,これらが決して日本人特有の胃癌型でなく,早期には表層にとどまっていることを示している.既に胃と腸6巻1337頁に書いたように,シカゴ大学の1955年以後の胃癌症例中に16例の早期胃癌をみつけた.つまりこれらの早期胃癌はアメリカでも存在する.では一体如何なる要因が早期発見を阻んでいるのか.第1に,胃癌の頻度が非常に低い.死亡率は,10万に10,日本の7~8分の1に過ぎず,世界で最低なるが故に,医療側,患者側共,胃癌に対する関心が薄い.第2に,殆どの胃癌患者は,症状がひどく進んで後医者を訪れる.高い医療費が患者の早期受診をはばんでいる.GTF検査の値段が約100ドルで,日本のそれの10倍に相当する,第3に,上述の理由から,日本で早期胃癌発見に寄与している集団検診方式は,経済的にも実現不可能である.第4に,診断能力が低い.一流の大学,病院では内視鏡が普及しつつあるが,X線検査は,殊に上部消化管検査に関しては,インターン,レジデント,あるいは若いFellowの入門コースとして行なわれ,日本のように優れた専門家が育たない.第5に,癌の病理診断基準に相異があるかも知れないこと,invasiveであることを必須条件とする病理学者が多い.隆起型早期胃癌の中には,米国の病理学者により癌と認められない例が存在するだろう.
以上に述べた諸問題は容易でなかろう.
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