- 有料閲覧
- 文献概要
Thymosinは胸腺から分泌されるポリペプタイドホルモンの総称である.1965年にGoldstein A. L.とWhite A.によって分離されてから,はや十数年を経た.ThymosinはT細胞の成熟に関係が深いが,B細胞には何ら働きかけないと考えられている.Thymosinレベルは幼時に高く,25~45歳で徐々に低下して,老年に至っては極めて少なくなる.これはT細胞数も同様である.Goldsteinによるpurificationの過程で5番目のものをThymosin 5と呼んでいるが(これも1つのポリペプタイドではない),その物質は既に人間のphaseI臨床でOKが出ている.Thymosin 5は正常免疫能を持った人のそれを更に高めるのではなく,低下したそれを正常レベルまでもっていこうとする働きがある.そして,異常に高まっている免疫能に対しては,それを正常レベルまで下げようとする働きもある.
米国のNational Cancer Instituteでは,肺のsmall cell carcinomaに標準的化学療法にかぶせてThymosinとプラセボとの比較試験を行った結果,Thymosin投与群では化学療法に完全反応したあとのtumor-freeの期間の延長がみられたと言う.特に,これらの患者の中で平均以下に免疫能が低下していた例に対して有効であったと言われている.この効果はThymosinが高くなったsuppressor/helper T細胞比を下げる方向に働いたためと解釈されている.Thymosinのこのような働きは,そのほかのいわゆる免疫賦活物質が,正常レベルの免疫能を有する個体のそれをより高いレベルへもっていく働きを持っているのと比べて,大分意味が違うと言えそうだ.
Copyright © 1981, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.