Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
胃粘膜の腺境界は,胃の機能と密接な関係を持っているといえよう.脊椎動物では,積極的に,栄養価の高い食物をとらえ,これを消化する機能を持つようになり,それとともに顎の発達と,消化管の中での胃という臓器の分化が生じてきた.胃は,顎によってとらえられ,かみくだかれた食物を,第一に消化する役割をはたす.食道を通って胃の中にとりこまれた食物は,酸度の高い分泌液にひたされ,そしてそのような酸度で有効に働く蛋白分解酵素により消化される.胃粘膜上皮は,アルカリ性の粘液を分泌して胃粘膜表層をおおい,この消化作用が粘膜自身にまで進展することを防いでいる.このようにして,胃の消化部位にとりいれられ胃液の消化をうけた食物は,運搬路としての幽門管を通って十二指腸に送られるが,その際これらの部位に存在するアルカリ性粘液を分泌する幽門腺やブルンネル腺の作用により,つよい酸性となった食物を中性あるいはアルカリ性化し,膵と小腸の消化液の作用を容易にしている.鯨などの種属では,胃のこの別々の機能を荷っている粘膜領域の間にくびれがあり,2つないし3つの胃として分かれている.しかし人間の胃では,これらの領域が同じ管腔の中に相接してい,一方,人間が直立姿勢をとったために胃の位置が変化し,摂取された食物は,他の哺乳類のごとく消化部位に直ちに到達せずに,小彎上を通って胃体部に到達するため,消化部位と運搬路との関係は,やや複雑になっている.
このような系統発生的な背景とともに,人間の胃について2つの重要な仕事が明らかにされた.第一は押川の仕事にもとついての,Aschoffの中間帯(Intermediäre Zone)であり,第二はStoerkの偽幽門腺(Pseudopylorische Drüse)である.Aschoffの教科書の胃粘膜領域区分の図の中には,中間帯の他に,胃街を中心とする一つの帯が図示されてい,胃底腺の中で,副細胞(Nebenzellen)の多い部位とされている.この図は,この部位と中間帯との異同と移行について示唆にとむ所見であり,また胃底腺の中で,副細胞がはたして正常の構成細胞であるか否かについても問題を提起している.Stoerkの偽幽門腺は,中間帯における胃底腺の萎縮過程を記載しているといえよう.
Copyright © 1980, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.