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Gastric adenocarcinoma masquerading endoscopically as benign gastric ulcer-a five-year experience: Podoltsky I, et al (Dig Dis Sci 33: 1057-1063, 1988)
内視鏡所見が良性潰瘍の像を呈し,生検結果も陰性であるにもかかわらず,経過観察中に腺癌が発見される症例が,ときにみられる.著者らは,このような良性潰瘍の仮面に隠された特殊な胃癌の病理学的所見および,その予後の検討を行う目的で,retrospectiveな調査を行った.対象は1975~1981年までの5年間に,胃癌と診断された266名のうち,確定診断前に内視鏡的生検を施行された169名である.調査の結果,内視鏡所見が良性潰瘍の像を呈していたものは10例,約6%であった.10症例の病巣最大径は,いずれも2.5cm以下で,進行度は早期癌3例,進行癌7例であった.リンパ節転移は早期癌の1例と進行癌の3例に認められた.組織所見では,1例が高分化型管状腺癌であったが,他の9例は低分化型または中分化型管状腺癌であった.一方,5年生存率(5生率)は,内視鏡所見が明らかに悪性像を呈していた159例より,有意に高かった(70% vs 17%,p<0.006).5生率の高さは,癌の進行度や分化度とは相関がなく,既存の文献的考察も踏まえ,病巣の大きさと相関するのではないかと思われた.しかし,病巣の大きさだけでは説明がつかず,潰瘍症状が発見を早めた結果,良好な予後が得られたこと,また,良性潰瘍の像を呈した癌は,元来緩徐な発育を示す特殊な胃癌である可能性を著者らは挙げている.胃潰瘍にみえる病変が,癌である頻度は極めて低いので,経済効率も当然低いのだが,早期胃癌に近い5生率が得られていることを考慮すると,内視鏡検査を施行する意義は十分ある,と著者らは結んでいる.
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