医道そぞろ歩き—医学史の視点から・26
甲状腺機能亢進症を記載した人びと
二宮 陸雄
1
1二宮内科
pp.1238-1239
発行日 1997年6月10日
Published Date 1997/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402904574
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日本ではバセドウ氏病と呼ばれてきたサイロキシン過剰分泌を伴う甲状腺腫は,18世紀以来多くの記載があり,イタリアではフラヤーニ氏病,アイルランドではグレーヴズ氏病と呼ばれ,イングランドではパリー氏病,ヨーロッパではバセドウ氏病とかメルゼブルク3徴と呼ばれてきた.メルゼブルクは,バセドウが開業していたドイツ中東部ザーレ川岸の町である.
ローマのフラヤーニは1802年に,「前頸部の甲状腺腫瘍について」という論文で機能亢進を伴う2例を記載した.その1人は22歳のスペイン系の塗装工で,フラヤーニは何度も瀉血をしている.パリーは牛痘種痘のジェンナーの幼なじみで,エディンバラで医学を学んだ後イングランド南西部のバースの総合病院で働いていた医師であるが,1786年に初めて症例に接し,8例をまとめて「心臓肥大や動悸を伴う甲状腺腫大」を記載したが,その主要部分は1825年,彼が死んだ後で公刊された.第1例の37歳の女性は毎分156の頻脈で,心搏動のたびに胸壁が震えたという.
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