- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
腹痛を代表とする「おなか」の症候は鑑別疾患が多く,どう対処すべきか迷う場合が少なくないのではないだろうか.そうした時に成書で消化器症候を調べると,症候の病態生理,症候に関しての病歴聴取・身体診察のポイント,鑑別疾患,初期治療などが体系的,網羅的に記述されている.成書を紐解くと症候についての理解が深まるが,いざその症候を訴える患者を前にして効率よく診療できるかといえば,そうとは限らない.鑑別疾患が必ずしも頻度の多いものから並んで記載されているわけではなく,優先順位をつけて対応するためには経験も必要になる.また,鑑別疾患を漏れなく挙げるために,疾患カテゴリの頭文字をとった“VINDICATE”などを用いる方法があるが,それらを片っ端から吟味するのは現実的でない場合が多い.これらの事項は非常に重要ではあるが,臨床現場で効率的に適用するためには別のアプローチが必要になる.
そのため本特集では,鑑別疾患を考える際の肝となる3C(Critical,Common,Curable)に注目した.まず緊急性のある疾患(Critical)であるかを見極め,そのあとにコモンな疾患(Common)と確実な治療のある疾患(Curable)を考える,というのが3Cに基づいたアプローチである.時間が限られた日々の外来や救急外来では,このアプローチが有用と考える.筆者の先生方には,緊急性のある疾患,確実な治療のある疾患を見逃さないためには,どのような点に着目して病歴聴取・身体診察を行えばよいのかを論じていただいた.また,消化器に関連した症候に惑わされて,消化器以外の疾患を見逃さないように,見逃すと重大な転帰をきたす可能性があり,想起しにくい非消化器疾患についても触れていただいた.そのため,本特集では鑑別疾患を網羅的に挙げることはせず,緊急性がなく,コモンでもない疾患はあえて省いてある.重要度の高い疾患を除外したあと,それ以外の疾患についてはゆっくり考えればよいからである.個人的な経験では,医療の現場においても,“パレートの法則(80対20の法則ともいう)”が当てはまるシーンは多いと考える.たとえば吐き気を起こす疾患は数多くあるが,それらの約2割を占める疾患が,結果として吐き気の原因の約8割となっているのではないかということだ.つまり,重要な疾患の2割程度を押さえればその症候をきたす症例の8割ほどは対処できるのではないかと考えている.本特集では,そのあたりを狙って執筆いただいた.
Copyright © 2024, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.