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「内科は整理の学問である」というのは自分が内科医としての師から教わった言葉である.現在自分は大学病院の総合診療科で勤務している.総合診療だけに診断に難渋するケースに対応することも多いが,そんなときは古典的なdual process theory(二重プロセス理論)に基づくいわゆるSystem 2の分析的思考を運用する必要がある.分析的思考を運用するには医学知識が整理されて頭の中にIndexとしてまとめられていることが大事であり,さらに,それぞれの主題となる情報(例えば,疾患名や症候名のラベル)がさまざまな見え方や切り口(疾患名であれば,症状や診察所見,検査所見.症候名であれば,発症様式の分類や随伴症状)で構成されていることから,その見え方や切り口の数々が主題から枝を伸ばした形でそれぞれ視覚的に表現されるなら,その枝が別の主題の枝とつながる形でハブになり,それぞれ主題同士の情報に有機的に接続することで広大なマップが形成されていく.そして,診断の際にもそのマップを用いることは有用である.例えば,糖尿病の既往がある80歳男性が急性発症の右下腿痛で来院されたとする.
ここでは,「80歳男性」「糖尿病」「急性発症」「右下腿痛」がいわゆる主題の情報となるであろう.80歳男性では,悪性腫瘍のリスク,退行性病変のリスク,血管リスク,感染リスクを伴い,糖尿病からは血管リスク,感染リスク,また自律神経障害による感覚異常も伴っているであろう.このような患者の背景からは,少なくとも二重の血管リスク,感染リスクがあることがわかる.急性発症の経過は血管や感染の病因としても違和感がない.もちろん自己免疫や薬剤性もあるが,その曝露情報や背景情報はないので筆頭の可能性には来ないであろう.このような状況での右下腿痛であり,想起されるのが下腿の深部静脈血栓症(DVT)や動脈閉塞,そして蜂巣炎(蜂窩織炎)や重度であれば壊死性筋膜炎というものになる.思考回路を視覚化すると,これらの主題同士の枝がシナプスしてつながることで,全体の疾患が浮き上がってくるのではないだろうか.
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