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本書の題名を見たときに,「公衆衛生」「緊急事態」「リスクコミュニケーション」という言葉から,日常診療に携わる皆さんには縁遠さや抵抗感を覚えたかもしれない.この3年間の新型コロナウイルス感染症対応で,もう緊急事態なんてこりごりだと思っている方も多いかもしれない.でも,本書を読み終えたとき,なぜ著者が「まちの医療者」を対象にしていたのか気付かされるのである.「日常診療で日々行ってきた業務はリスクコミュニケーションそのものだった!」と驚きとともに心に刺さることだろう.
私自身は病院の管理者として,また行政において新型コロナ保健医療施策の立案,運営の指揮に携わる立場として本書を読み始めた.改めてリスクコミュニケーションの理論的背景や標準的対応と実践を体系的に学ぶ最高のテキストに出合えたと思った.これは数か月間かけて学校のプログラムとして学んだら,さぞ面白い思考回路ができ上がるのではないだろうか.私は一般的な医学教育を修めた後に,臨床現場での経験,災害・危機管理対応のトレーニングと実践を経て今に至っているが,もっと早く本書に出合っていたら,この3年間の新型コロナウイルス感染症対応でも,もっと違うアプローチをしていたのかもしれないと思う.行政,医療福祉,産業保健など,さまざまな立場で本書に触れたときに「あの時のことだ」「なるほど心当たりあるなあ」「確かに……」と思わず,うなずいている自分がいることだろう.本書を読み始めると導入部で,少々難しい理論や概念,用語だと感じる項目から書かれていると感じる.著者もこの点は承知していて,ページをめくって最初に「本書の読み方」が書いてある.Part1から読むことに拘らず,目下の課題や困りごとに近い項目や目次から見つけて読む方法も提示しているのだ.私から読者の皆さんにあえてお勧めするもう1つの方法は,あまり身構えずに,小説を読むように最初から気楽に通読することである.一見厚い本だが新型コロナウイルス感染症や福島原発事故など実例を挙げて,同じ事象を章ごとに異なる切り口で繰り返し,リスクコミュニケーション手法を説明しているので,自然に内容が理解できるようになっていく.なんといっても手にマーカーペンを持って重要な部位に線を引くという勉強スタイルが不要なのだ.なぜなら,事前に著者が重要部位に青のマーカーをつけてくれている.ニクイ演出ではないか!
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