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「イレウス」は麻痺性イレウスを指し,機械的閉塞を伴うものは「腸閉塞」と呼ぶというように用語が統一されたのは,『急性腹症診療ガイドライン2015』がこの世に出てからとなる.私のような古だぬき先生となると,何でもかんでも「イレウス」とテキトーに呼んでいたから楽(?)だったが,確かに論文上ではほとんど“ileus”という用語は使われず,“bowel obstruction”と記載されていた.英語と日本語の齟齬が初めて正されたといえる.この急性腹症診療ガイドライン策定に陣頭指揮を執った真弓俊彦先生をはじめ,実に濃いメンバーで整合性がとれた内容の急性腹症の本が世に出たのは非常に喜ばしい.内容がアップデートされているのみならず,非常にわかりやすく,初学者にとっては重宝するテキストになるだろう.急性腹症はとにかく鑑別が多く,頭の中で整理するのは大変だもの.
一般に腹痛のテキストを見ても,腹部の解剖学的な分割表に疾患名が羅列されただけのものが多く,病態生理を同時に考える本は少なかった.本書では内臓痛や体性痛が丁寧に説明されている.同時に解剖学的臓器を考えることで急性腹症の診断学力が飛躍的に伸びるだろう.腹膜刺激症状だけでは急性腹症は語れないのだ.「お腹が硬くないからこそ,怖い疾患」を想起できるかどうかは臨床医の腕の見せどころ.あくまでも診断は病歴と身体所見で8割想起可能であり,だからこそ疾患を予想して追加するCTの威力は抜群だ.一方,何も鑑別診断を挙げないで,「何でもかんでもCTさえすれば放射線科医が診断してくれるからいいや」なんという不届きな!(失礼)……安易な検査優先の診断学をしているのでは,簡単に「CTでは異常はありませんから病」なんて頼りない診断名でけむに巻くようになってしまうんだよね.
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