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前著『診断力強化トレーニング』に引き続き7年の歳月を経て出版された待望の続編である.監修者である松村理司先生が第1弾の序文のなかで述べられていた,日本の臨床研修で不足しているのが「診断推論の徹底した訓練」であるという指摘は,現在でも続いていると感じる.この涵養には多くの医師は10年程かかるのではなかろうか.初期研修では,病歴聴取の型やコモンな疾患に関する一般的な知識を習得することが可能であるが,後期研修を終えたとしてもまれな疾患は遭遇する機会に乏しく,そのような疾患は鑑別の仕方もわからないものである.より深い臨床上の疑問や知恵というのは,ケースカンファレンスで扱われる類いまれな疾患や,コモンな疾患のまれな徴候への洞察により生まれる.そのための教育手法はcase discussionであると私は思っているが,この環境がなかなかできない.私は京都GIMカンファレンスには出席したことがないのだが,その環境ができているであろうことをこの本から察することができる.
熟練者の思考プロセスを敷衍することが,臨床教育上最も重要であり,そのシラバスとして前書と本書が存在していると私は考えている.通常の診療をしていても,おそらく10年に1回程度しか経験しない症例から臨床上の深い知恵が生まれるが,その経験には時間と空間を必要とする.この本は実は時間を買っているのである.clinician educatorを目指す医師はcover to coverで熟読すべき必携の本であろう.編集者である酒見英太先生が発案されたClues,Red Herring,Clincher,Clinical Pearlsという,前書から引き継がれている体裁にこの本の深みを感じ取るヒントがある.病歴と身体所見,付け加えられる検査所見(病歴と身体所見があくまで情報の中心というコンセプトは随所に垣間見られる)を同じように見せられても,初学者と熟練者では見ているところが異なることに気付かない.適切な指南者がいて症例から学ぶべき道筋が得られるものであり,それがこの体裁に現れている.ともすると堅苦しくなりがちなケースカンファレンスを,その強引とも言えるタイトル命名!(この辺りは関西人の発想であろう)とその種明かしというオブラートで楽しく包んでいる.
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