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医学教育の国際認証時代に入り,基礎医学・臨床医学および医療行動科学が十分に統合された医学生への教育の提供と,それによる基本的診療能力のパフォーマンスレベルでの質保証が必須となってきた.診療参加型実習(クリニカル・クラークシップ)の充実が強く求められている日本で,しっかりと熟考されたカルテ記載能力の修得は,まさに医学教育の集大成となる目標の一つである.しかし,現時点で,カルテ記載教育は必ずしも充実しておらず,学生・研修医と各科指導医の双方における日本の課題となっている.私は,1年次からカルテ記載について学習することが,基礎医学,臨床医学および医療行動科学を十分に統合して学ぶべき医学生の目標設定となり,医学学習のモチベーションにつながると考えた.そして,数年前から担当している1年次通年の医療面接・臨床推論学習に,模擬患者による医療面接OSCEとともに,カルテ記載を取り入れてきた経緯もあり,本テキストを楽しみに読ませていただいた.
本書は前半で,カルテ記載の「基本の型」として,あらゆる診療科の基本となるべきSOAP(S:Subjective data,O:Objective data,A:Assessment,P:Plan)に沿った詳細なポイントを,良い例,悪い例を比較して提示しながら解説している.特に,「S・O以上に書くべき内容や,記載形式が曖昧で,医師によって書き方の違いが大きい」とされ,書き方や指導に悩む医師が多いAについても,実際の場面やS・Oと関連付けて説明する工夫により,わかりやすく記載されている.後半では,「応用の型」として,実際の臨床現場における「入院時記録」から「経過記録」「退院時要約」「初診外来」「継続外来」までのみならず,「訪問診療」「救急外来」「集中治療」にわたる各セッティング場面におけるカルテ記載のポイントを説明している.その際,初めのところで「診察・カルテ記載に使える時間」「事前情報・問題リストの量」「患者の重症度」「患者の関心」「多職種の関心」などの医療行動科学の重要な視点から成る「各セッティングの特徴一覧」を表で記載し,その後の各セッティングのページで,それぞれの詳細を実際のカルテ例,図表,Q & A,まとめ,column等を豊富に使って解説している.さらに,最後の「おまけの型」では,「病棟患者管理シート」「診療情報提供書」にまで言及している.
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